めまい

crystalrabbit

めまい

 

 四拾五歳だった。いつまでも、若いつもりでいたが、もうそんなに若くはない。年をとるということが不思議なような気持ちになるが、認めなければならないと、今では思う。

 そんな気持ちに彼をさせたのは、ある朝の出来事だった。いつものように、目覚めたものの、もう少し布団の中で時間を過ごしたいと思っていた。何しろ、その日は仕事に行かなくてもよい日になっていたから。子供たちはどうやら、三人とも学校に行ったらしい。十二月にしては少し寒いせいもあるし、それに昨夜床に就いたのが二時だったから、余計に眠いのだ。

 妻の声が聞こえる。何度目だろうか。先ほどは「パンを焼きますよ」、と言った。今度は「焼けましたよ」と言ってきた。こんなはずはなかった。こんなに、何度も朝起こしてもらうほど甘えていいものだろうか、と思った。これが、最後だ。今度は起きよう、こう思って妻が言ったときに飛び起きた。廊下に出る。

 なんだか、変だぞ。くらくらする。それよりも、吐き気に似た感じだ。これはいけない。立っていられない。こう思って、布団の中に引き返した。十分ぐらい寝ただろうか。もういいだろう。そう思ってトイレに立った。やはり吐き気がする。この前と一緒だ。例のめまいとかいうやつだ。こりゃいけない。しばらく寝ておこう。こう思ってトイレから出ると、すぐにまた布団の中に入った。結局昼まで寝ていた。これが、二度目のめまいの顛末だ。もう、若くはない。やっとわかった。 

 最初のめまいは夜の十一時半だ。連日遅くまでパソコンをおもちゃのようにして遊んでいたから、早くから眠くなった。結局、その日は八時過ぎに床についたのではないかと思う。そのころは、息子もまだ小さく、居間のとなり狭い寝室で一緒に寝ていたので、夕食が終わると、早くから布団を敷いていた。それで、その日も、早くから寝てしまったものらしい。一寝入りすると、疲れがとれて十一時過ぎに目が覚めた。時計を見ると十一時半だ。

 よし起きよう。いつものように決心して、ぱっと立ち上がった。何かおかしいぞ。くるくると廻っている。子供の頃、両手をあげてくるくると廻る。廻り終わってもまだ周りの景色は廻り続ける。あの感じなのだ。ふらふらする。自分が廻っているのではない。周りの世界が廻っているのだ。そして言いようのない不快感。その後襲った吐き気。咄嗟に座り、うつぶせになった。少しは楽になった。目を瞑った。布団に顔をおしつけた。じっとするに限る。            

 しばらくして吐き気もおさまった。廻りの世界は少しは廻っているようだが、ほとんど止まっている。少しでも勢いをつけて首を回したら、また世界が廻りそうだった。

 このまま死んでしまうかと思ったが、何とか生きてるではないか。と思うとともに、さっきのがめまいというものだろうか、と思った。「家庭の医学」は二階にある。階段を這うようにして上がった。

 やはり、めまいだ。治ったようだが、このまま起きておくのは怖い。すぐに寝ることにしてその日は再び寝た。

 ・・そして、今朝のめまい。これはどうしょうもない。近くのお医者さんに診てもらうことにした。crystalrabbit

 

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