crystalrabbit

 

 リーダーの中条小夜子の目が、怪しく輝いていた。それを、とりまく同じ年格好の男女が数人。緊張と恐怖、それにいくらかの陶酔のまじった複雑な気持ちである。

「許せない。我々の目標を忘れた最も厭うべき堕落だわ。恥を知りなさいよ、恥を!」

 髪が乱れて、うなだれた顔を半ば蔽っている。もう何日も化粧などしたことのない素肌は、汚れているものの、一端にその若さをのぞかせていた。

 その時、日暮れて暗くなった山あいの方から二度梟が鳴く声が聞こえた。

 その鳴き声は小夜子に、故郷の家族のことを思い出させた。

  こんなことがあった。

 朝、一羽の梟がまいこんできた。食事どきだった。その頃は、まだ朝の食事は家族全員が揃ってとっていた。一番早く起きる母、そしてその次に起きる兄。兄は私から見れば、不思議なほど朝に強い人だった。私が階下の洗面所に行く頃には、兄は新聞を郵便受けからとってきて、食卓の隅に置いていた。そして朝の支度をしている母と何か話していた。この習慣は兄がまだ新聞を読まない頃からずっとこうしていたことで、新聞を自分で読むようになっても変わらなかった。私のうちでは朝、新聞を運ぶのは兄の役目であった。

 やがて食事の支度ができた頃、私に遅れて父が現われる。父、は新聞の一面にちらと目を通しただけで、すぐに食事にかかる。……たしか、その日も同じように父がちらりと新聞の一面を見ただけで食事をしようとつして、傍の小さなテーブルの上に新聞を置いた直後だったと思う。

 一瞬何が起こったのかわからぬほどの早さで、バサバサという音とともに風が舞った。みんなが目を上げて、そちらの方を見たのはほとんど同時だった。

 お惣菜をいれた鍋に激突し、引っ繰り返した。その衝撃で梟も飛べなくなって兄に捕まった。怒った兄は「ヨシ、ソウカツダ!」と言って近くにあった包丁でその梟の腹を刺して殺した。死骸は山中の土に埋めた。土は焦げ茶色で、粒子も小さくいかにも養分に富んでいそうだった。

 今思い返してみても、そのときのことを残酷に思わないのは、その梟が私たちの食べる予定だった、というよりも、私たちに当然のことながら食べる権利のあった朝のおかずを台無しにされたという腹いせのせいだったのかもしれない。兄がそうしていなかったら、あるいは私が、兄と同じようなことをしたかもしれない。

 ソウカツという言葉を兄がどこで覚えたのかは知らないが、随分と難しい言葉を使うものだと思った。私はその言葉を今ではこのように自分なりに使うことができるが、その時は、その事件の整理としてソウカツというのは、やはり八才の私には、理解を超えていた。そのような、光景の中にあって、だれもが静止することもしなければ、目を背けもせず、それぞれのおのが心の在り方こそ異なれ、この兄の行為を見ていた私たち一家は何だったのだろうかとずっと思っていた。また、その行為よりも理由のほうが優先するとという意識が急速に心の中に生まれ育った。理由が正しければ、全てが許されていると。crystalrabbit

 

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