西屋

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西屋

 

 時間がたつにつれて,西屋で翔坪が亡くなったときの状況が次第にわかってきた。潤也には、恭子の死よりも、こちらのほうがむしろ異常に思われた。

 伊沼島の南西に伸びる小山の斜面にちょうど東屋の瑚宝家と対峙するようにあるのが猿橋家の西屋である。

 彩子の叔父瑚宝権坪夫婦は、一人息子の翔坪を連れて、猿橋家の法事に行っていた。そこで、翔坪の死体が発見された。蔵と離れの間である。母屋からは少し離れている。翔坪が発見されたとき、翔坪はプラスチック製のおかめの面を被り、女物の浴衣を着ていた。発見したのは、翔坪の従姉にあたる猿橋家の長女佳奈である。佳奈は大人たちを呼びに行った後、ショックで口が利けなくなっているという。そして奇妙なことに、翔坪の着ていた浴衣は佳奈のもので、佳奈は翔坪の男物の浴衣を着ていた。

 

 村の診療所の神嶋医師の診断によると、心臓麻痺である。それ以上の疑問点はない。病院以外で死亡した場合は,一応警察に届けることになっている。村には駐在所がある。駐在の北木巡査は、神嶋医師から状況をつぶさに聞いた。また、発見者の佳奈は翌日になると事情を話した。みんなを驚かせるために、翔坪と浴衣を取り替え、おかめひょっとこの面を被って遊んでいたという。母屋の佳奈の部屋の周辺で遊んでいたが、いつの間にか翔坪がいなくなって、それに気づいて、探しに行ったということである。

 北木巡査も、翔坪が女装して亡くなっていたので最初は驚いたが、事情が分かってみると心臓麻痺による突然の死と判断するしかなかった。ただ、ほぼ同じ時間に谷を隔てて東側の瑚宝家のほうでも、次女の恭子が同じような原因で亡くなっている。こちらも神嶋医師の診断によると心臓麻痺だという。伊沼島の駐在所に赴任して二年あまりたったが、島では事件らしい事件は起こったことはない。偶然にしては奇妙だが,それでも、事件性は感じられない。神嶋医師の診断にも怪しいところはない。ということで、一度は、事件ではないかと疑ったものの、本署には連絡しなかった。

 医師が変死と言えば司法解剖される。医師が病死と届けても警察が変死として疑えば、これも司法解剖される。この場合、医師が変死扱いしないのだから、そのまま北木巡査が処理すれば、病死として事件にはならない。

 当然のことながら、瑚宝家、猿橋家からも捜査の要求はなかった。

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