塩の道

crystalrabbit

塩の道

 

 市は川沿いにあった。市の近くに桟橋が設けられている。そこは浚渫され,たいていの船が積み荷一杯でやってきてもいいようになっている。今,目のまえでの川を船が昇って来る。荷物を満載した船だ。やがて停泊した。人夫が降りる。人夫が揚がる。荷物が慌ただしく降ろされる。

 

 塩が積み込まれはじめた。

 キャラバンが一週間前に運んだものだ。

 

 風が吹いている。砂塵が舞い上がり、視界が急に悪くなる。煙か雲のように、近くの駱駝が見え隠れする。遠くの駱駝は、いや駱駝のみならず、遠くの景色も、何も見えない。しかし、その風もまもなくおさまり、砂漠はもとの静けさと乾燥した砂の原に戻った。 

「明日発とう」隊長が静かに言った。砂塵はやっと修まった。ちょうど、出発前に出くわしたので、今回はやり過ごすことができた。長く続く場合もあるが、この季節には襲ってきてもあまり長くは続かない。しかし、途中で出会うこともある。 

 いよいよ出発の準備だ。準備は早朝から始まった。いつものように、駱駝の咆哮が、乾いた大地に轟いた。首を巨大な蛇のように右へ左へと捻りながら動かした。自らの宿命を呪うかのような、哀しい叫びが長く続いた。

 しかし、その声に同情する者はいない。この厳しい自然は、ただ無言の作業を強いる。黙々と作業を続けていく。それがすべてなのだ。哀れみも、反省も、希望すらも、意識の対象外なのだ。

 先頭の駱駝を少年が引く。棒の端に縄を結び、その他端が先頭の駱駝の顎に結わえられている。その先頭の駱駝の尻尾から二本の縄が伸び、その縄の他の端はそれぞれ次の駱駝の顎につながっている。

 熱砂の中を暖められた空気が上昇し陽炎となって視界を妨げる。朦朧とした風景の中に、人影が動く。動物が動く。夥しい数の動物の移動。陽炎のゆらめくさまが、大気の温度の急上昇を告げる。灼熱の砂漠を、駱駝に荷を負わせて、隊列は粛粛と進む。

 塩を運ぶキャラバンである。crystalrabbit

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