地蔵人形

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地蔵人形

 

 母の葬儀が滞り無く終わり、お棺に花が手向けられる前だった。父が喪服のポケットから小さな地蔵人形を出して、母の手に握らせた。布でできたお地蔵さんだった。父は手をいったん引っ込めたがその後思い直したのか、再度母の手のところに自分の手をもっていって、そのお地蔵さんを裏返して、母の手の中でうつむきにさせた。さらに、ポケットから一枚の写真を出して母の手にもたせた。私たち三人姉妹弟の写真だった。

 小さな遺品をお棺に入れるのはよくあることだから、不自然さはなかった。よくある光景のひとつに過ぎなかった。

 

 葬儀が終わって何日かして、私はその布人形が、違い棚の私たちの写真のそばにあったものだと思い出した。

 床の間の横の違い棚には、私たち三人姉妹弟の幼い頃の写真が写真たてに入れて立てられていた。父も母も写真にこだわらなかったので、その写真以外で家の中で写真など飾られたことはなかった。

 その写真立てにもたせかけるようにして、その小さな地蔵人形は立っていた。頭巾をかぶったふっくらとした顔には、細い目が紅い糸でつくられていた。かぼそい口は顔の布を少し窪ませただけだった。表情だけ見ると、笑っているようにも見えたし、眠っている幼子のようにも見えた。手は先が細くなった布が中央で結ばれ、お祈りをしているようにも見えた。手のほうから見ると、お地蔵さんのようにも見えた。不思議な人形だった。

 

 四十九日の法要の打ち合わせのために実家に帰ったときそれとなく父に尋ねた。

「最後にお母さんにもたせてあげたお人形さん、あれ何だったの」

「お母さんが自分で作ったんだよ」

「へーえ、あんなものも自分で作れたんだ」

「手先が器用だったからね。パッチワークの端切れで作ったんだと思う。いつのまにかできていたから」

「もっと作ればよかったのにね」

「いや、一人だけでよかったんだ」

「ひとつだけなら、お母さんの記念においておけばよかったのに」

「いや、あの子はお母さんと一緒にいるのがいいんだ」

「あの子って・・・?」

「四人目・・・」

「私たちの弟か妹?」

「そうだよ。生まれてはこなかったけどね」

「名前もないわけ?」

「そう」

「そんな話、はじめて聞いたわ。なぜ黙っていたの?」

「こういうことは、子どもは知らない方がいいんだ。後ろ向きになってもいけないしね」

「それじゃ、二人だけで供養してたというわけ?」

「それぞれが、心の中で。時々話題にしてね」

「へえっ、そんなことがあったんだ」

「下になるほど賢い子が生まれるので、産んでおけばよかったと言ってたよ。一度だけ」

「そうよ。男の子だったらよかたのにね」

「ずっと年をとってからだよ。だから何を言っても手遅れだった」

「それで、その子の命日は?」

「八月四日」

「そう。これからは母に変わって私が供養してあげる」

「いや、もういいんだよ。あの子はお母さんと一緒なんだから」

「そうね。二人で仲良く遊んでいるわね」crystalrabbit