家路

crystalrabbit 家路 瑚宝彩子は、夏休みになったら、白石潤也を伴って帰省し、家族に紹介する予定であったが、父の容態が思わしくないという連絡があったので、予定を変更して帰省することにした。そのことを彩子から告げられたとき、潤也は、是非一緒に行き…

北北西に進路を取るな

crystalrabbit 北北西に進路を取るな 「さっきの刑事さん、なかなか絵がうまかったね」 ハンドルを握っている小野寺進が言った。 赤のミラは初夏の海に面した道路を静かに走った。朝出かけに、田島屋ホテルの女将さんが出してくれた。よっかたらどうぞ、とい…

悲しみの大地

crystalrabbit 悲しみの大地 レストランうたせ船であなたがたの会話を聞き、パラグアイのことを調べているとわかりました。祖母から聞いたことや、まだ知らないことを洩れ聞くにつけ、詳しく聞いてみたいと何度も思いました。しかし、僕が名乗り出ると、パラ…

大観覧車

crystalrabbit 大観覧車 二人の乗ったゴンドラはゆっくりと地面から遠ざかっていく。 「さっき大観覧車の下にオリーブの木があったから、笑っちゃった。いい取り合わせね」 白峰千恵が奥の椅子に座って、小野寺進のほうを向いて笑った。 「悪い趣味だよ。そ…

メンバーズクラブ・レェイ

crystalrabbit メンバーズクラブ・レェイ 「先生はこちらへ来られる前はどちらへおられましたか」 「呉の聖労会病院に2年かな」 「それでは、民岡先生とは・・・」 「民岡先生の後任ですよ。ですから呉ではご一緒には勤務していませんね」 「民岡先生にはラ…

廃屋

crystalrabbit 廃屋 同じ夢を何度も見た。自分が何であるかはわからない。村から村へとさすらう旅人のようでもある。 風は昼すぎから吹き出した。山頂から吹き降ろす風は、時に急旋回をして、山を覆う木立の葉叢を震わせた。 夕暮れになって風は更に強くなっ…

海辺の墓地

crystalrabbit 海辺の墓地 断崖の下は海である。穏やかな浪が寄せては遠ざかる。幾年にもわたって浸食されて複雑な大小の穴が縦横に伸びた岩場に、浪は当たっては砕ける。白い泡が生じて瞬く間に消えていく。その音が風にのって崖を這い上がる。その音を追い…

木曜島からの手紙

crystalrabbit 木曜島からの手紙 —せとうち抄— 市内の女子大に通う一人娘の亜也子が、電車とバスを乗り継いで帰ってきたとき、母の葉子はいたずらっぽく笑いながら口を開いた。 「やはり、あのお姉さんの作文、見せてあげればよかったのに」 「・・・」 夫の…

トンド

crystalrabbit トンド —せとうち抄— 1 マニラで生まれた長浦峰子は、小学校へ上がる前に、両親の故郷である田島に帰ってきた。そこには、祖父母と峰子の兄が住んでいて、峰子ががマニラから戻ったので、四人で暮らすようになった。家族一人が増えるだけでも…

虹の章

crystalrabbit 虹の章 一 東から西へ向かって流れる千町川は、その流れがあるかなきかに停滞している。 淡い初秋の陽が川面でわずかに反射し、柔らかい日差しは川底の小魚を照らした。鮒に似た小魚が数尾群れをなして、藻を漁っている。このあたりでは「はえ…

デベラ

crystalrabbit デベラ —せとうち抄— 十二月になると、鷹野橋商店街は平日でも賑わってきた。店頭で売られる商品の数々にも、歳末の装いが感じられるようになった。 信号が青になって電車通りを越えて、商店街のほうへ流れていく人々の足並みも、いつもよりせ…

送春賦

crystalrabbit 送春賦 1 その年の秋、僕らはある小さな町の大学へ合同セミナーを行いにやってきた。その町は川と山に挟まれた小さな平野の中にあった。川の中州には、雑草が生い茂り、所々にたまった丸い石は、乾いて土砂がこびりついていた。水はゆっくり…

プールに棲むカッパの霊

crystalrabbit プールに棲むカッパの霊 -少年少女恐怖館ノ内- 「何か変よ。」と美沙が言った。少し間をおいて、美沙は続けた。 「プールの中を何か、泳いでいたみたい。」 梅雨の合間の久しぶりの太陽が照りつけている。子供たちにとっては、やはりプール…

紅孔雀

crystalrabbit 紅孔雀 一 亜里沙 風がヒュウヒュウと鳴っている。木の葉を舞わせ、砂塵を飛ばした。春風だ。新緑を抱いた山が霞んで見える。 茶色の猫が蕾みを膨らませた木の下で欠伸をしている。野犬があてどもなく、走っては辻で止まり、しばし鼻を動かし…

CRYSTALRABBIT HOME

crystalrabbit の home …… 紅孔雀 m 幻影 m 出航 #1 ベルサイユ #2 嵐 #3 難破 #4 救助 #5 パトーリ #6 プールに棲むカッパの霊 亜由ちゃんちのおばあちゃん お見舞いに来たのはだれ? 人面瘡 蛇っ子 蟻 ふくしゅうは必ず…… 森の兄妹 亡霊のくる夜 ピエロが…