森の兄妹

crystalrabbit

森の兄妹   -少年少女恐怖館ノ内-

 

 私達兄妹は森の中でよく遊んだ。たいていは、きのこ採りや野いちご摘みのように、何か目的があって森の中に入ったが、二人とも森の中が好きだった。幼い頃から森の中で遊んでいたから、森こそが私達の故郷だと言ってよかった。

 たいていのところは、鬱蒼とした樹影に覆われて、真昼の面影はなかったから、これも雲のいたずら程度に考えていた。しかし、その日は行けども行けども、空は明るくならなかった。今回は違う。いつもと、まったく違う。予想した時間がたっても、一向に明るくならないではないか。今度ばかりは、森に迷ったようだ。

 木の葉が揺れる。その木の葉を通ってくる光りが震える。

 やがて、別の木の葉の揺れる音が、遠くから聞こえてきた。その音は、次第に大きくなった。

 私が怖いと思ったのは、その時が最初だった。それまでは何とかなると思っていたが、この時の木の葉の揺れる音を聞いたとき、何か恐ろしいことが起こると、直感した。木の葉の揺れる音がまるで雷が鳴るときのように、地面を震わせたとき、私はおもわず、兄の腕を強く握った。だいじょうぶ、と力弱く兄は言った。だいじょうぶだとは思わなかったが、それでも、兄と一緒だから立っていることが出来た。

 そしてしばらく行くと、ある一軒家があった。

 私たちは疲れていたので、どこでもよいから休めるところがあれば休みたいと思っていた。だから、その家の外観のことは、全然気にならなかった。今から考えてみれば、随分心許ない真生と外観だったのだが・・・・。

 ドアを押すと、ひとりでにドアは開いた。そのことにも私たちは何ら疑問を抱かなかった。入っていくと、すぐに応接室があって、電気がともっていた。黄色いランプのような形をしたシェードの中で小さな光がともっていた。そして応接椅子があって、一人座っている人がいた。はっきりと見たわけではないが、その雰囲気から、すぐに男の人だということがわかった。女の人だったら、いつまでも椅子に座ったままでいないで、すぐに立って迎えにでる。そうしなかったから、その座っている人を男の人だと思った。しかし、まもなく・・・・

「こんにちわ。少し休ませていただきたいんですけど」

 そう言うと、

「どうぞ・・・」

 後はくぐもった声が弱々しく返ってきた。

 びっくりした。その男は顔が虎ではないか。

 しかし言うことはやさしい。この嵐だ。道に迷ってもしかたがない。それにまもなく日がくれるだろう。何も心配しなくていいから休んでいくがいいと言ってくれた。

 しかし、この恐怖。顔は虎なのだ。もちろん、動物の虎そのものではない。しかし、人間でもない。人間が虎の覆面をしているのではない。人間の顔が虎の顔になったと思えばいい。そして半分は人間の面影を残している虎だとおもえばいい。あるいは半分は虎の面影を残している人間だと考えればいい。

 この人がやさしいというだけで、この家に入ることにしたのではない。外のほうがもっと恐いので、この家に頼るしかなかったのだ。

 結局、日が暮れて泊まっていくことにしたが、私は眠るわけにいかなかった。この男がいつ襲ってくるかわからなかったからである。

 私は、この人に向かって、なぜ顔が虎なのか尋ねてみたいと思った。しかし、怖くてできない。聞けば、「おまえ達を食べるためだ!」という答えが返ってきそうだった。crystalrabbit