新聞

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 岡山県警の中央司令室に男の死体らしきものを見付けたという百十番連絡があったのは、昭和47年11月16日の昼すぎのことだった。

 通報してきたのは、タバコ屋の奥さんだが、ハイキング帰りの親子が発見したという。子供が小用のため、ハイキング道路からはずれて小道のほうへ入ったところで、変なものを見つけたと言って戻ってきたので、父親が行ってみると、松の木からぶらさがった死体だったので吃驚したということである。

 山ぎわに生えた草は枯れて、晩秋が山の麓まで進行してきていた。茶色になった草の間にわずかに人の通ったあとがある。しかし、そのを踏みしめてている。薄の茂る小道は人も通らず、かすかにそこが道であったことを告げていた。

 近所の者の証言で、近くに住む独居老人であることがわかった。警察の捜査で、居住していた近くの小屋のような住居はすぐに発見された。部屋は荒らされた様子は見られなかった。畳の真ん中にしわくちゃの新聞紙が、丁寧に広げられていたのが、その場には不自然に見えた、と小屋を最初に訪れた巡査は言った。

 さらに近所の者の証言から、この男の妻は既になく、二年ほど前から、この小屋に人目を避けるように独り住んでいるということだった。この小屋と土地の持ち主の知人だということであった。crystalrabbit