2015-05-07から1日間の記事一覧

流犬

crystalrabbit 流犬 さっきまで叫んでいた野犬の鳴き声が、今は静かになっている。しかし、すぐに喧しくなるだろう。何が切っ掛けになるのかは、わからない。一匹が叫ぶ。他の犬が呼応する。さらに、呼応する。耳を覆いたくなる。しかし、しばらくすると止む…

蒜山

crystalrabbit 蒜山 あれは、大学の四年生の夏休みだった。夏休みと言っても、私の通っていた大学は七月一杯が前期で、夏休みは八月、九月とたっぷりあった。私は、幸い就職が決まっており、卒論のテーマもほぼ固まっていたので、学生時代最後の休みを思い出…

大いなる遺産

crystalrabbit 大いなる遺産 アメリカ留学時代の友人であるカリホルニア大学教授のユーリン・マッケルシーからEメイルが届いたのは金曜日の午前10時過ぎだった。 「極めてインタレスティングな化石が発見された。ぜひとも意見を聞きたいのでできるだけ早く…

身代わり地蔵

crystalrabbit 身代わり地蔵 秋のよく晴れた日曜日のことです。 「秀ちゃん、元気?」 と、ブロックの塀をぴょんと飛び越えてやってきたのは、黒猫ピョンでした。 黒猫ピョンというのは、秀ちゃんと大のなかよしのまっ黒な猫です。顔のまん中で緑色に光る眼…

四十島

crystalrabbit 四十島 夏の暑い日のことでした。太陽はまだ真上にきていないのに、正午のように暑い日でした。 秀ちゃんは、庭においたビニールプールに水をいっぱい入れ、その上にゴムボートを浮かべて遊んでいます。 黒猫ピョンは、さっきまでプールの中に…

嵐をこえて

crystalrabbit 嵐をこえて 一 「秀ちゃん、一人でおばちゃんのおうちまで、お使いに行けるかしら?」 「うん、だいじょうぶだよ」 秀ちゃんは、お母さんに向かって元気よく答えました。お母さんが声をかけたとき、秀ちゃんはお庭で、砂遊びをしていたところ…

なわとびなかま

crystalrabbit なわとびなかま 秀ちゃんは二年生です。 秋のよく晴れた日のことです。お母さんが言いました。 「よく晴れた日には、なわとびをして遊びなさい」 秀ちゃんは、なわとびはきらいですが、でも、せっかくお母さんが新しいなわとびを買ってくれた…

おうつり

crystalrabbit おうつり 村一番の分限者の先代の葬儀も滞り無く済み、新しい当主が村中に世襲の挨拶と葬儀へのお礼をかねて、一件一件を廻って来たのは、戸外におれば日焼けが一層進むような、初夏のよく晴れた日だった。 どの家でも、慇懃に当主を迎え、わ…

お見舞いに来たのはだれ?

crystalrabbit お見舞いに来たのはだれ? -少年少女恐怖館之内- 「ユリね、今日はお休みだったよ。」 真由美は家に帰るとママに言った。 ユリと真由美は大の仲良しである。 ユリが熱を出して、学校を休んだのは水曜日のことだった。 ユリが学校に来ないの…

奈落の上

crystalrabbit 奈落の上 悪夢は今でも甦る。時々、身体が浮くような感じに襲われる。そのときは胸が締め付けられる。また、あの恐怖が襲ってくると、考えてしまう。あんなことなど二度と思い出したくない。できることなら、私の記憶の中からあの日一日のこと…

古磯家奇伝

crystalrabbit 古磯家奇伝 最近舌が長くなったような気がする。それに何か便利な器官が一つ増えたような感じで、自分の能力について再考する必要があるのではないかと思い始めた。 蛙に近づいているのだ。これは祖父の時代にした大蛙との約束であったに違い…

幽霊たいじ

crystalrabbit 幽霊たいじ 春のよく晴れた日のことです。 秀ちゃんは、いつものように日のよく当たる部屋で、ひとりでブロック遊びをしていました。青や緑のブロックが太陽の光を反射して、魔法の世界を作っています。 雀が五、六羽、庭にやってきて、木の枝…

ベルサイユ

crystalrabbit ベルサイユ やがて、見送る人たちの姿が棒にになり、点になった。 和彦の目の前を蒼い海水がおもしろいように後へ流れる。 「和彦、リカ。さあ中へ入りましょう」 いつまでも海とその向こうに広がる眺望に見飽きぬ和彦とリカに美紀が声をかけ…

六人のメッセンジャー

crystalrabbit 六人のメッセンジャー 群から離れて何日か過ぎた。その前に、我々の親戚は、森の仲間たちと袂を分かっていた。 森の仲間から離れていった理由は、ほんとうのところよくわからない。ずっと前のことだからである。祖父のときか、あるいはもっと…

日本人形

crystalrabbit 日本人形 「おもしろい話を聞きましたよ」 部屋に入ってくるなり、小泉がこのような話し方をしたのは初めてである。 所長の水城は体をひねるようにして、小泉のほうを見た。 「持ち主の頭が必ずおかしくなるという人形の話は、ご存じですか?…

遊女人形

crystalrabbit 遊女人形 ハルは舞子が好きだった。流れるような黒髪の下に静かな微笑をたたえた舞子を見ているだけで、うっとりする。ハルは何時間でも舞子を見つめていたいと思った。ふっくらとした頬。かすかに開いた愛らしい口元。そしてはるか永遠を見つ…