売血連盟

crystalrabbit

売血連盟

 

 日が暮れると、決まって黒い自動車がやってきた。

 男は静かに車から降りる。その男の背後には何があるのか知らぬが,深い深い闇があるように思われた。そのせいかその男が乗ってきた車は,どこにもないほど黒い色で塗られているように思われた。

 

 この男とは路上で何度もすれ違っている。はじめは確かに警戒していたようだ。しかし,何度がすれ違ううちに次第に男は警戒心を解いていった。こういう仕事をしていたら,たいていは敵か味方か,あるいは第三者かの見当はすぐにつくものである。

 当然のことながら,こちらは敵ではないということは,自分では表明しているつもりでも相手にいかように伝わるかは,自信の限りではない。だから,何回かすれ違っているうちに,少なくとも敵ではないと,一種の緊張を解いたときは,ほっとしたものである。そして,さらに何度か会う内に,やっとインタビューに応じてもらえるようになった間柄だった。

 

 最近のことを語れといわれても,特別のことがあるわけではない。しいて,ひとつだけ記せば,血液を売っているのだ。いい儲けだ。バイヤーは、もっと欲しいという。どこの誰だか、皆目わからない。

 最近ではもっと増やせと言う。だが,こちらとしてしては、精一杯だ。

 この業界では間に人が何人も介在していて、結局自分がどの段階にあるのかも、わからないということだ。だから源流もわからなければ、末端も知らないのである。私が、この商売に入ったのも、古くからの友人の紹介によるもので、深いところではどうなっているのか、わからないのだ。それでも、法に触れるわけではないし、悪くない儲けなのでやっている、別に密売ということでもない。ただ、この世界は、許可とか認可とかというものとは無縁な世界だから、正規のルートに比べれば、裏のルートに違いない。国家はそれを知らずにいるのか、あるいは知っても知らぬ顔をしているのか、そのへんのところは私にもわからない。

 私のところでは、私の配下から集めた血を、仲買に売るのである。

 もちろん逆向きのルートから、採血後の血液の処置についての特別な方法が指示されたこともある。その指示がなされたものは、例えば○Aとか○Sとかの記号がうたれていた。

 ○Aは勿論Aidsである。こういうものは、使い物にならない。

 ・・・・最近,誰からともいうこともなく聞いた噂に,取り締まりが厳しくなったということだ。既に何人かは,引っ張れていったので,気をつけろと忠告してくれる者もいる。crystalrabbit