2015-05-01から1ヶ月間の記事一覧

crystalrabbit 梟 リーダーの中条小夜子の目が、怪しく輝いていた。それを、とりまく同じ年格好の男女が数人。緊張と恐怖、それにいくらかの陶酔のまじった複雑な気持ちである。 「許せない。我々の目標を忘れた最も厭うべき堕落だわ。恥を知りなさいよ、恥…

新聞

crystalrabbit 新聞 岡山県警の中央司令室に男の死体らしきものを見付けたという百十番連絡があったのは、昭和47年11月16日の昼すぎのことだった。 通報してきたのは、タバコ屋の奥さんだが、ハイキング帰りの親子が発見したという。子供が小用のため…

閑谷の影

crystalrabbit 閑谷の影 学問所を作ろうと云われた言葉ほど、津田永忠の血をたぎらせたものはなかった。今までに多くの工事をしてきたが、この話を聞いたときには、この仕事を完遂できたら、あとは余生だ、という気持ちになった。 素晴らしいことではないか…

血の足跡

crystalrabbit 血の足跡 パリ 3月21日 やれやれ、こんな日に緊急の仕事とは、ついてないな。 ドゴール国際空港検疫所とパスツール研究所からの連名の連絡を受けて、フランス外務省の当直事務官は、アメリカ、イギリス、オーストラリア、マレーシア、そして日…

森の兄妹

crystalrabbit 森の兄妹 -少年少女恐怖館ノ内- 私達兄妹は森の中でよく遊んだ。たいていは、きのこ採りや野いちご摘みのように、何か目的があって森の中に入ったが、二人とも森の中が好きだった。幼い頃から森の中で遊んでいたから、森こそが私達の故郷だ…

crystalrabbit 蟻 -少年少女恐怖館ノ内- 「一人でばっかり食べないで、お姉ちゃんたちにも、上げなさいよ」 いつものように、ママが言う。 「うん、わかった」 雄太は、そう言ったが、一向に菓子袋を手放しそうにない。 「少しはママの言うことも聞きなさ…

蛇っ子

crystalrabbit 蛇っ子 -少年少女恐怖館ノ内- 蛇はかしこい動物だから、よく人間に化けて学校の授業を聞きに来るんだよ、と言われていた。お婆ちゃんがこどもの頃はこういう話を信じていた子はけっこういたらしい。 「今でも人間に化ける蛇がいるのかなあ」…

ふくしゅうは必ず……

crystalrabbit ふくしゅうは必ず…… -少年少女恐怖館ノ内- 救急車のサイレン…… はっと目をあける。でも、何も起こっていない。夢でもない。夢なんか見ていない。 美里は、頭を両手でおさえた。これで三回目だ。なぜだろう……。 ともだちも、家族も、そしても…

水軍遊び

crystalrabbit 水軍遊び 海。 しかし、一面の霧である。 朝日が霧の向こうに大きな円形の輪郭を見せている。影絵のようにその形だけが、くっきりと浮かんでいる。 春はまだ浅く、早朝の瀬戸内はやや肌寒い。しかし、海水の温度は暖かく、夜間に水蒸気となっ…

黄葉亭萬控帖

crystalrabbit 黄葉亭萬控帖 「何か事件かね」 茶山先生が尋ねると、にっと笑って、芳さんは前かがみに出ていった。 近ごろでは先生公認だから、遠慮はいらないはずだったが、それでも午前中から出ていくのは、気がひけるらしい。 先程、小僧が使い走りの書…

不思議な親子

crystalrabbit 不思議な親子 定年退職後は自由に暮らしておりました。子供たちは独立して、妻と二人だけの生活ですが、年をとって妻は益々出不精になり、私は長い公務員生活から解放されたことでもあり、若い頃にも増して、三日に開けず一人旅を楽しんでおり…

宇宙飛行

crystalrabbit 宇宙飛行 秋のよく晴れた日のことでした。秀ちゃんが日のよくあたる暖かい部屋でテレビを見ていると、黒猫のピョンがやってきました。 「秀ちゃん、何をそんなにおもしろそうに見ているんだい?」 「ああ、ピョンか。見てごらん。毛利さんだよ…

我が越え来れば

crystalrabbit 我が越え来れば もの心ついたときには、自分の周囲にはあまりにも、喧噪が渦巻いていた。 今朝も、早暁より、鴬の鳴き音は繁く、やがて朝日の移動とともに庭にまで押し寄せて来る。庭にきた鴬の啼き音を聞いて、ふと、のどかなるものとはこん…

流犬

crystalrabbit 流犬 さっきまで叫んでいた野犬の鳴き声が、今は静かになっている。しかし、すぐに喧しくなるだろう。何が切っ掛けになるのかは、わからない。一匹が叫ぶ。他の犬が呼応する。さらに、呼応する。耳を覆いたくなる。しかし、しばらくすると止む…

蒜山

crystalrabbit 蒜山 あれは、大学の四年生の夏休みだった。夏休みと言っても、私の通っていた大学は七月一杯が前期で、夏休みは八月、九月とたっぷりあった。私は、幸い就職が決まっており、卒論のテーマもほぼ固まっていたので、学生時代最後の休みを思い出…

大いなる遺産

crystalrabbit 大いなる遺産 アメリカ留学時代の友人であるカリホルニア大学教授のユーリン・マッケルシーからEメイルが届いたのは金曜日の午前10時過ぎだった。 「極めてインタレスティングな化石が発見された。ぜひとも意見を聞きたいのでできるだけ早く…

身代わり地蔵

crystalrabbit 身代わり地蔵 秋のよく晴れた日曜日のことです。 「秀ちゃん、元気?」 と、ブロックの塀をぴょんと飛び越えてやってきたのは、黒猫ピョンでした。 黒猫ピョンというのは、秀ちゃんと大のなかよしのまっ黒な猫です。顔のまん中で緑色に光る眼…

四十島

crystalrabbit 四十島 夏の暑い日のことでした。太陽はまだ真上にきていないのに、正午のように暑い日でした。 秀ちゃんは、庭においたビニールプールに水をいっぱい入れ、その上にゴムボートを浮かべて遊んでいます。 黒猫ピョンは、さっきまでプールの中に…

嵐をこえて

crystalrabbit 嵐をこえて 一 「秀ちゃん、一人でおばちゃんのおうちまで、お使いに行けるかしら?」 「うん、だいじょうぶだよ」 秀ちゃんは、お母さんに向かって元気よく答えました。お母さんが声をかけたとき、秀ちゃんはお庭で、砂遊びをしていたところ…

なわとびなかま

crystalrabbit なわとびなかま 秀ちゃんは二年生です。 秋のよく晴れた日のことです。お母さんが言いました。 「よく晴れた日には、なわとびをして遊びなさい」 秀ちゃんは、なわとびはきらいですが、でも、せっかくお母さんが新しいなわとびを買ってくれた…

おうつり

crystalrabbit おうつり 村一番の分限者の先代の葬儀も滞り無く済み、新しい当主が村中に世襲の挨拶と葬儀へのお礼をかねて、一件一件を廻って来たのは、戸外におれば日焼けが一層進むような、初夏のよく晴れた日だった。 どの家でも、慇懃に当主を迎え、わ…

お見舞いに来たのはだれ?

crystalrabbit お見舞いに来たのはだれ? -少年少女恐怖館之内- 「ユリね、今日はお休みだったよ。」 真由美は家に帰るとママに言った。 ユリと真由美は大の仲良しである。 ユリが熱を出して、学校を休んだのは水曜日のことだった。 ユリが学校に来ないの…

奈落の上

crystalrabbit 奈落の上 悪夢は今でも甦る。時々、身体が浮くような感じに襲われる。そのときは胸が締め付けられる。また、あの恐怖が襲ってくると、考えてしまう。あんなことなど二度と思い出したくない。できることなら、私の記憶の中からあの日一日のこと…

古磯家奇伝

crystalrabbit 古磯家奇伝 最近舌が長くなったような気がする。それに何か便利な器官が一つ増えたような感じで、自分の能力について再考する必要があるのではないかと思い始めた。 蛙に近づいているのだ。これは祖父の時代にした大蛙との約束であったに違い…

幽霊たいじ

crystalrabbit 幽霊たいじ 春のよく晴れた日のことです。 秀ちゃんは、いつものように日のよく当たる部屋で、ひとりでブロック遊びをしていました。青や緑のブロックが太陽の光を反射して、魔法の世界を作っています。 雀が五、六羽、庭にやってきて、木の枝…

ベルサイユ

crystalrabbit ベルサイユ やがて、見送る人たちの姿が棒にになり、点になった。 和彦の目の前を蒼い海水がおもしろいように後へ流れる。 「和彦、リカ。さあ中へ入りましょう」 いつまでも海とその向こうに広がる眺望に見飽きぬ和彦とリカに美紀が声をかけ…

六人のメッセンジャー

crystalrabbit 六人のメッセンジャー 群から離れて何日か過ぎた。その前に、我々の親戚は、森の仲間たちと袂を分かっていた。 森の仲間から離れていった理由は、ほんとうのところよくわからない。ずっと前のことだからである。祖父のときか、あるいはもっと…

日本人形

crystalrabbit 日本人形 「おもしろい話を聞きましたよ」 部屋に入ってくるなり、小泉がこのような話し方をしたのは初めてである。 所長の水城は体をひねるようにして、小泉のほうを見た。 「持ち主の頭が必ずおかしくなるという人形の話は、ご存じですか?…

遊女人形

crystalrabbit 遊女人形 ハルは舞子が好きだった。流れるような黒髪の下に静かな微笑をたたえた舞子を見ているだけで、うっとりする。ハルは何時間でも舞子を見つめていたいと思った。ふっくらとした頬。かすかに開いた愛らしい口元。そしてはるか永遠を見つ…

亜由ちゃんちのおばあちゃん

crystalrabbit 亜由ちゃんちのおばあちゃん ―少年少女恐怖館ノ内― 亜由ちゃんちには、おばあちゃんがたくさんいる。最も年寄りのおばあちゃんは、百才をとうに越えているのに、次のおばあちゃんよりも元気だ。 この前も家の前を歩いていた。そこへ喜美ちゃん…